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出来上がった食事を盆に乗せ、佐倉の所へ運ぶ。
それに気付いて佐倉は身体を起こした。
膝の上にセットしてやるとゆっくりとした動きでスプーンを手にした。
「熱いから気を付けて」
佐倉はコクリと頷くと雑炊を一掬いし、ふーふーと吹いている。
あまりにも素直過ぎて戸惑いすら覚える。
「美味しい」
佐倉の微笑みに、オレの視線が釘付けになる。
この微笑みを向けられる為なら、オレは何でも出来る気がしていた。
このところ食事が摂れていなかったせいか、お腹が空いていたのだろう。
完食してくれていて、嬉しかった。
病院で処方された薬を、手渡そうとした瞬間にパッと電気が消えた。
「きゃっ」
驚いて佐倉が小さな悲鳴をあげた。
窓の外を見ると、道路の街灯も消えている。
「送電線でも切れたのかも知れないな」
暖炉の火が松明代わりになり、真っ暗になった訳ではなかったが、部屋の壁に掛けておいたオイルランプを二つ取り、一つを佐倉の傍に、もう一つを自分の手元に置いた。
「尊さんの所にいて良かった。ボク一人だったら大変なことになってたかも」
佐倉がしみじみと言うので、思わず笑ってしまった。
「だからオレのとこに居て正解だったろ?」
佐倉は食後の薬を飲み、横になった。
お膳を下げてテーブルをどかすと、寝袋を床に敷いた。
「尊さん、床に寝るの?
ごめんね。
ボクがベッド取っちゃったから」
「キャンプでは、テントの中に寝袋で寝るんだよ。
家の中で暖炉の傍なんだから、全然平気。
余計な心配いらないよ。病人はゆっくり寝てればいいの」
傍にいたいから…
只、それだけだから―――
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