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辺りがざわめき立っていた。
ひときわ大きく甲高い男の声が聞こえていた。
浮ついた声は要領を得ない敬語をまくし立てている。
まだ覚醒もしていない状態で相馬俊介はそれに聞き耳を立てていた。
理解こそできなかったが、大変な事態になっていることだけは分かった。
夢現の中で相馬は何があったんだろう、と誰に対するわけでもなく一人ごちた。
もちろんのこと、答えてくれる者はいない。
まどろむ景色の中で、相馬は自分の体に鞭打って半身を起こした。
何ら変わりもない自分の部屋だ。
ぼんやりと薄目を開けて辺りを見渡すと、喧騒はパソコンのスピーカーから溢れ出ていた。
六畳の小さな部屋に似合わない大型の液晶画面の中で、スーツ姿のアナウンサーが大声で何事か話していた。
ベッドの上で身を捩じらせて目覚まし時計に目をやった。
仮眠のつもりが二時間も寝てしまった。
相馬は欠伸を噛み殺してパソコンの元へ歩み寄った。
床に散乱した服や紙くずなどを踏みつけて、机下に収まっている椅子を引く。
キャスターがTシャツを巻き込んだが、相馬は気にもせずそこへ腰を下ろした。
パソコンの画面は依然として六時のニュースを流し続けている。
『これは先日の矢島さん殺害の事件と関連しているのでしょうか』
『詳しいことはまだ分かっておりません。警視庁は後ほど会見を行うとのことです』
『分かりました。世田谷区の現場から土屋が――』
スナック菓子の袋に埋もれていたマウスを探り出し、相馬はそのウィンドウの右上にある「閉じる」のボタンを押した。
テレビチューナーが切断され、画面の中で動き続けていた人の姿が一瞬にして消え去ると辺りは静寂に包まれた。
七時までは面白い番組もやっていない。
テレビのウィンドウを開き続けていても、小賢しいニュースが耳につくだけだ。
「殺人事件ねえ」
ねっとりと脂ぎった髪の毛をくしゃくしゃと掻き毟りながら、相馬は口の中で呟いた。
事件についてはたいして興味もなかったが、頭の中で「殺人」という言葉がくるくると回っていた。
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