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なぜ殺すだの殺されただのということが、ここまで騒がれるのだろう。人は必ず死に逝くというのに。
人は――否、生き物というものは、どうあろうともいずれ死ぬ。
あるものは大切なものたちに見取られ、その生涯を終える。
あるものは病魔にその身を蝕まれて死んでいく。
あるものは自らその生を絶つ。
突発的な事故に巻き込まれて亡くなる者も少なくない。
それが同種の人間に命を奪われたとして、何が変わりあるのだろう。
老死や病死と同じように人の命がこの世から消え去る――そんな人の死という全く変わりのない事柄だというのに、それが「殺人」として姿を変えたとき、人はそれを法で裁くのだ。
そして、その結果「死刑」という形になって再び人の死を生み出す。
しかし「死刑」は法の下にあり、殺人とは言わない――。
その矛盾を指摘する者はほとんどいない。
死刑反対論者は少なからずいるが、もしもその者の大切な人たちが惨殺された時、彼らはどう言うだろう。
それでも死刑は反対だというだろうか。
その殺人犯がのうのうと生きることを許すのだろうか。
人は――自らの矛盾を認めようとしない。
(こんなことを考えるからいけないんだ)
ぼんやりとそう思って、相馬は自嘲的な笑みを零した。
そんなことを考えてどうなる。
自分には関係ないことだ。他人のことなんてどうでもよかった。
相馬はマウスをぐっと握り締め、カーソルをふらふらと動かした。
その矢印の先を封筒の絵が描かれたアイコンに載せる。
カチカチと音を立ててマウスを叩く。ウィンドウが大きく開いた。
ふとキーボードの隣に置かれた携帯電話に目をやると、着信があったと告げるランプが点っていた。
折りたたまれたそれを無造作に開くと、着信四件と書かれていた。
誰からかは分かっていた。相馬は履歴を見ることもせず、携帯を閉じた。と同時に小さな音を立ててパソコンが受信完了を告げた。
その中に、ひときわ目を引く件名がひとつだけあった。
ウイルスかもしれないなどという雑念は抱きもしなかった。
磁石へと引き寄せられるように、カーソルはその件名へ滑っていた。
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