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「えぇぇぇぇっ!? 真美ッ! ね、願い事はいったら叶わねぇんだぞ!」
「じゃあ叶わないの? この願いは……叶えて、くれないの?」
いつになく積極的な真美の黒瞳が正道を見つめる。
この瞳には不思議な力が宿っている。正道はこの瞳に見つめられると弱い。
しかし、今から応えることはこの瞳に負けていうのではなく、正直な自分の気持ち。真美の気持ちにはっきりと自分の言葉で応えなければならない。
軽く息を吐いて真美を見据える。熱っぽい大きな黒瞳に正道の固い表情が映り込む。
「叶うよ。叶える……それに、俺の願い事も真美と同じだから」
『真美とずっと一緒にいれますように』――それが正道の願った未だ変わらぬ願いだった。
正道はいい終わると恥かしさからうつむく。
真美からは反応がない。永遠ともとれる時間が流れる。ホームルーム前のどたばたとした雑多な音もどこか遠くで鳴っているようだ。
「真……うおっ」
正道が顔を上げると堪え切れないように真美が正道の胸に飛び込んできた。
その柔らかい感触を受け止めて正道は思う。
――俺がずっと守っていく。そのために自分の力がある。それでいい。
「遅刻すんぞ」
「うんっ」
二人は自然に手を繋ぎ、階段を駆けていく。
――鐘の音が鳴る。荘厳で雄大なその音は二人を祝福するように響き渡った。
〈了〉
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