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美泉(みいずみ)市 第二埠頭 某倉庫。
立ち込めた冷たい夜気が男の蛮声に震える。
「だ、誰だてめぇはッ!」
緊迫した声に周囲の男たちも立ち上がる。その数約二十。
「……!」
闖(ちん)入者――漆黒のコートを纏った巨躯の男。齢は三十代後半から五十代。金髪のオールバック。跳ね上げ式の丸いサングラスが頑丈そうな骨格に不釣り合いな男……そんな相手の特徴を完全に把握する前に全員が闖入者の両手に持たれた“もの”を見て息を呑んだ。それは赤黒く、まるで熟れたザクロのようで――
「これ、君たちのお友達だろ?」
低い声が響く。闇に沈んだ海を背に、男は重々しいブーツの靴音を鳴らして歩みを進め、その無骨な両手に持ったものを男たちに軽々と掲げて見せた。赤黒いそれが照明に照らされて林檎飴のように怪しく光る。それを見て男たちの誰かが確認するように声を上げた。
「……ユウタと……タイキ……か?」
男の両手に持たれていたのは頭部を血に染めた男たち――ソーサラーギャング「ブラザーフッド」通称「ブラッド」――のメンバー二人。この倉庫はブラッドのアジトのようである。
闖入者はその二人を床に投げ、
「あー、どっちがどっちかな?」
丸太のような腕を組み、もはや血で顔の造作も判然としない二人を見比べた。
倒れている二人はかすかに呻いている、虫の息ではあるが死んではいないようだった。男は独りでに語り出す。
「いや、私が街を歩いてると急に路地に引っ張り込まれてね。そこでこの子たちが「色眼(しきがん)」を見せびらかして、血……いや、ブラッドがどうとかいってお金を要求してきたんだ……」
「ッ! それでやったのかッ!」
殺気立った男たちのなかから左眼が黄金色に輝く少年が飛び出す。
それは魔力を持たない人間との唯一の特異点「色眼」をさらす魔導士。
「おいおい、話は最後まで……」
「黙れッ! 『土刀(アースソード)』ッ!」
突き出された少年の手に黄金色の方陣が展開する。
次の瞬間、少年の手には木刀のようなものが顕現し、しかと握られていた。
ただ見た目が木刀のようなだけで刃は鋭く殺気を放っていた。
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