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少年は男に振りかぶる。
男は巌のような巨躯、“見失いさえしなければ”どこにでもその剣撃を当てられる。しかし――
「え?」
見失った。
勢いよく地面に叩きつけたせいで土刀(アースソード)が砕け散り、土の欠片が飛散し、消えていく。
「――魔導を使うまでもない」
少年の耳に響くのは冷たい重い声。
後方、振り返る間もなく少年の身体は積み荷の壁に吹き飛ばされた。鈍い衝突音を上げて少年が崩れ落ちる。
男の動きは人間を超越していた。少なくともここにいる人間には男の動きが見えなかった。
あまりの実力の差、本物の戦闘力に男たちは凍りつく。
「では、話の続きだ」
男は突き出していた右腕を静かに戻し、サングラスを押し上げた。
「リーダーは? ……いるんだろう? なんでもこの街では名の通った犯罪集団だそうじゃないか。そのリーダーに是非会いたくてね」
「だからここまできたってのか」
高く積まれた中身不明のコンテナの上から黒いパーカーの男が飛び降りる。
左眼は先刻の少年と同じ黄金色――特化属性は「地」――闖入者の男とは違い、無理やり染めたような金色の短髪に耳を埋めつくさんばかりのピアス。顔立ちは整っているが眼つきはナイフのように鋭い。その男は臆すことなく歩を進め自分より頭一つ大きい男の顔を見上げる。
「君が……テルキ・アサマ君か。名前はそこの二人に訊いておいた」
「逆だ。浅間照樹だ。外人がなんの用だ。俺らを潰しにきたか? 仲間やっといてタダで帰れると思うなよ」
「怖いな。ちなみに私は日系アメリカ人だよ。親日家の……でもまあ外人か」
男はいって、押し殺したように笑う。
白い肌に自然な金髪。まるで軍人のような格好をした男は外人にしか見えない。
浅間は男が流暢な日本語を話す理由を秘かに納得しながら怪訝そうに声を上げた。
「おい」
「おっと、そんな怖い顔するなよ。ここにきた理由はね、お金を“払いに”きたんだ」
「はぁ?」
「そこで真っ赤になってる子たちの要求だよ。誰も拒絶なんてしてない。リーダーのところへ案内を頼んだら襲ってきてね。正当防衛だよ」
「どういう……」
――なんだコイツ。絡んできたやつ潰して、アジトまで乗り込むか普通。しかも金だ? なに考えてやがる。
判然としない浅間をよそに、男は両手を広げブラッドのメンバー全員に聞こえるように声を上げた。まるで舞台俳優のように朗々と。
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