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一、渡航
「鬼ヶ島に行こうぜ」
夏休みも残り一週間になった頃、親友の黒田が電話でそう誘ってきた。高校生活最後の夏休みも受験勉強で終わりそうだったから、遊びの誘いは大いに賛成だった。が……その場所が俺をうろたえさせた。
「鬼ヶ島…?……何でだよ?」
「無人島でキャンプなんて最高だろ?俺の親父のボート使えばすぐだぜ」
「いや、でもあそこは…」
「あ、お前びびってんのか?まさか、鬼の伝説とか信じちゃってるの?」
黒田がからかうように言ったので、俺は慌てて否定した。
「いや、そんなんじゃないけどさ…」
「じゃあ決まりだな。青木にはもう言ってあるから」
一方的に電話を切られた後、俺は深くため息をついた。
「鬼ヶ島…」
翌日の昼過ぎに俺たちは出航した。親には適当に2泊旅行に行くと言っておいた。鬼ヶ島に行くとはもちろん言ってない。
天気がよく波は穏やかなので、鬼ヶ島までは一時間もあれば着く。
ボート、無人島、キャンプ、夏、青い空…。自然と三人のテンションは高まっていた。
しかし、鬼ヶ島がかすかに見え始めた途端、二人とは違って、俺の心は揺れだした。得体の知れない黒いものが胸に広がるのを感じていた。
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