三、過去

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三、過去

少し経つと雨は上がり、きれいに晴れ渡った。黒田と青木は泳ぎに行ったが、俺は気分が悪いと言って砂浜で休んでいることにした。実際気分は悪かった。あの二人には言っていないが、俺はこの島に来たことがあった。 俺が小学生の頃、隣の家に白川隆史という同級生がいた。俺とたかちゃんは、何をするのにも一緒だった。 10歳になったばかりのある日、たかちゃんは俺にこう言った。 「ゆうちゃん、鬼ヶ島に行かない?」 彼の突然の申し出に驚いた。子どもだけで海を渡るのは不可能だったし、渡れたとしても、子どもだけで行くことを大人が許すはずがない。 困惑している俺に、たかちゃんは無邪気な顔で言った。 「俺の父ちゃん、鬼ヶ島にでっかい家を建てるんだって。だから、今度下見に鬼ヶ島に行くって言ってた」 たかちゃんの父親は建築士だった。たかちゃんの話によると、父親達が船で渡るときに、自分達も一緒についていこうということだった。めったに渡れる島ではない。俺は不安と期待の入り交じった気持ちでOKした。 数日後、俺たちは数人の大人に交じって鬼ヶ島に渡った。遠くには行くなという大人の忠告を聞き流し、俺たちは森の奥へ入っていった。 道なき道をどんどん歩いていくと、急に目の前に古い石像が現れた。植物の蔦が絡まり、全身に苔むしてはいたが、それは紛れもなく鬼の像だった。頭には二本の短い角、するどい目、大きな口と牙。二人はしばし茫然と鬼の像を見上げていた。
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