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「どうぞ」
満面の笑みの女の子だった。俺と同じ学校の制服、リボンの色から同級生だと分かる。肩まである緩いウェーブのかかった栗色の髪、その髪を変わった飾りの付いたゴムで耳の上で結っていたのが印象的だった。何の飾りなのかよくわからなかったのだが。
「いいのか、貰っても?てか、なんで?」
戸惑いながらも聞いた。見知らぬやつになんで奢るのか。
「あなたの様な方は報われるべきですから、どうぞいただいて下さい」
まるで俺の今朝の出来事を全部見ていたかのように答えた。
「ちょっと待った。あんたいつから俺を見てたんだ?」
「それはもちろん、最初から最後まで」
「・・・最初ってどこよ?」
最後はここになるのだから当然の疑問を持つ。
「1日の始まりは起床から、に決まってるじゃないですか」
「家からかよっ!?」
無垢な瞳でさも当然に答えるからツッコミに力が入る。
「あれれ、お姉さんに私のこと聞いてませんでしたか?」
「いや、聞いてないよ」
この辺で嫌な予感がしてきた。
「昨日の夕方に私、お隣の部屋に引っ越してきて、挨拶に伺ったらあなたのお姉さんが出迎えてくれたんですよ」
「あのヤロウ、俺に伝えるの面倒くさがったな」
その時俺は主婦ばりに買い物をしていた。一人愚痴てしまう。しかしなんか矛盾があるような。
「それで、弟さんが同じ学校だと知って翌朝に一緒に登校すればいいと」
「俺の預かり知らぬとこで話が進んでいたと?」
「そうみたいです。すいません」
「いや、落ち度はウチの馬鹿姉だ」
帰ったら説教だ。
「あ、早く飲んだ方がいいですよ、冷めちゃいます」
「ああ、そうだな、いただきます」
そして改めて受け取ったコーヒーは、俺が飲めないブラックコーヒーだった。
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