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「ねえ聞いて、夢ちゃん元気になったんだって!」
食卓に着くなり、母さんがそう言って来た。
「そうなのか?
別にいつもと変わらないと思ったけど」
「話によると、昨日から急に元気を出したらしくてね。
とても楽しい事をやり始めたとか言ってたらしいわよ」
「へえ、そりゃいい傾向だな」
元々無趣味みたいな奴だったし、人生に潤いが出ていいだろう。それに、同じ趣味を持った奴と友達になれるかもしれない。
「ふふ、やっぱり幼馴染ねー。心配して元気付けようとするなんて」
「はい?」
「あら、違うの?
夢ちゃん、幸生の為に頑張るんだって言ってたらしいのよ。
だからてっきり、あんたが何かしたもんだと」
「いや、俺は別に何も」
強いて言えば、卒業パーティーの曲作りを依頼した位で、特に何かした覚えがない。
「まあいいわ。これからも夢をよろしくって、夢ちゃんのお母さんが言ってたわよ。
あんたの話をしている時が、一番楽しそうだからって」
「って言われてもなあ……。
母さんだって知ってるだろう?俺には彼女がいるんだ、夢だけにかまってもいられないって」
俺はそう言い放って、自分の部屋へと戻った。
……
「『それじゃあ、日曜日に学校近くの公園で待ち合わせな』っと。
よし、送信完了」
美好とデートの約束をした後、俺は布団に入る。
「にしても、夢の奴元気になったんだな。まあ良かった」
先程の不満と悲しみの籠もった顔がちらついたが、それでもその報告で安堵の気持ちが出てくる。
「でも、時間軸的には、俺が作曲の依頼をしてから夢が元気になったって事だよな」
その2つをつなげるのは難しくはない。そしてそうすると、ひとつのフレーズが頭に引っかかる。
「俺の為に頑張る、か。
それは違うぞ夢、お前は美好やヒデ、パーティーを楽しみにしている奴の為に頑張ってるんだ。
俺に固執するなよ、俺には美好がいるんだから」
いくら幼馴染だからと言っても、あまりそういう風にするのは良くない。それに、美好は俺が浮気をするのではないかと心配していたので、一緒に居過ぎて彼女に余計な不安を抱かれたら嫌だ。
「ま、でもとりあえず頑張れよ。
作曲と、それから男探しも」
俺は夢に話しかけるように呟くと、眠気に促されるまま眠りに落ちて行ったのだった。
……
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