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「な、何かな?」
「いや、美好のコンサートで使う曲を俺が作ったんだが、どんなもんか夢にも見てもらいたくてな。
あ、もちろん本番までオフレコだぞ」
「うん、わかった」
そして俺が歌詞を手渡すと、夢はじっくりと目を通して……
「……いい曲だと思う。
学生の元気さとか、前向きさが出てるって言うか」
「やっぱり、天唐さんもいい曲だと思う?」
「えっ、う、うん」
「そっか。それじゃあこの曲は、優等生の天唐さんお墨付きって事だね」
夢の感想に対し、美好も満足げな表情を浮かべる。
「『最初の一歩を踏み出せば
鉛の足が羽に変わる』……」
「お、天唐さんもこのフレーズが気に入ったんだな」
「それは良かった。前置きとサビの間、言わば終わりと始まりの場所。そこで一歩を踏み出す事が重要だと言う、この歌詞に秘めたメッセージを端的に表している、肝の部分だからな」
「凄いね幸生くん、たった一晩でそこまで考えて歌詞を作るなんて。もしかして、作詞の才能あるんじゃない?」
「いやいや、そんな事ないって」
俺たちはそんな感じでHRまでの時間を過ごしたのだが、その間夢はずっと、歌詞の1点を見つめ続けていた。
……
「はい、今日はここまで」
「起立、礼」
「……ふーっ、終わったー。
美好、帰ろうぜ」
「ごめんなさい。今日は合唱部の人に、歌の練習を手伝ってもらう約束をしているの」
「あ、そうなんだ」
「うん、ごめんね」
「いや、俺は全く問題ない。
それより、美好に仲のいい女友達が出来てて、ほっとしたよ」
「幸生くんのおかげだよ、ありがとう」
「どういたしまして。
じゃ、俺は行くから」
「うん、それじゃあね」
俺は美好に別れを告げ、下駄箱へ向かおうとしたのだが……
「ね、ねえ、幸生」
美好が教室を出るのと同じタイミングで、夢が話しかけて来た。
「ん、どうしたんだ?」
「あ、そのね……。
良かったら今日、一緒に帰ってくれないかなって思って……」
「え?まあ別にいいけど」
「本当!?よかったあ……」
俺がそう返事をすると、夢は何故か嬉しそうな表情を浮かべた。
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