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私はこの季節が好き。
明るく暖かい部屋。
2人分の料理。
そこから立ち上る湯気。
この部屋で貴方の帰りを待つ私と、この部屋で待つ私の許に帰ってくる貴方。
「おかえり」と「ただいま」は、「愛している」よりも至上の愛の言葉。
後は、帰ってきた貴方に最高の笑顔を送るだけで完璧。
それは何よりも幸せな、私の夢の形。
曇りかけた窓の外に見える降る雪も、私の夢を彩る演出のひとつにすぎない。
30分前に駅に着いたの連絡。
もうそろそろ帰ってくるかな。
突然鳴るチャイム。
鍵を持っているのに……何かの演出?
扉を開けて貴方を迎え入れる。
もちろん、貴方が好きと言ってくれた最高の笑顔で。
この季節に出逢って今日で1年。
そして、新しい1年が始まる、今日という日。
私は、この季節が大好きだった。
+++++++++++
僕はこの季節が好きだった。
ぼんやりと室内を照らす蛍光灯。
コンビニの袋に入った弁当。
温めてもらったその温もりも、消えかけている。
行き場を失くした「ただいま」が、「おかえり」を求めて、今も何処か部屋の中を彷徨っている。
この季節に出逢って今日で2年。
愛する人を失って始まった新しい1年が今日、過ぎようとしている。
曇りかけた窓に映る夢の幻。
そこにある君の最高の笑顔が、今も僕を縛り付ける。
僕は、この季節が大好きだった。
それは、君がこの季節を好きだったからだよ。
「……ただいま」
囁いた想いは白い息となってゆっくりと薄れ、
曇りかけの窓に映るあの日の君の笑顔が、ゆっくりと曇って行く……
……fin
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