それは、初恋でした。

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「驚かせてすまない。少年よ、良い歌だったよ」  ボクは老人が危なげに立ち上がり、彼女を抱き上げる姿をじっと見ていた。 「この子はアリスという。絡繰り人形さ。とはいっても…今の今まで動いたことはなかったがね」  アリスと呼ばれた少女は、球体関節を持つ等身大の人形。  ボクはただ彼女の硝子の瞳を見つめ続けた。 「この子が踊り出したのは今日が初めてだ。君の歌を心から気に入ったと見える。ありがとう、アリスは実に楽しそうだったよ」  気付くとボクは泣いていた。  観衆からの止まない拍手、老人の柔らかな笑顔、全てがボクの中に入り混じり合い溶けていった。  そして、彼女…アリスの姿になってボクの心に刻まれた。  やがて観客も老人も、アリスも帰って行った後、ボクは広場で泣き続けた。  ほんの一時の出来事、絡繰り人形のアリス、でも…  それは確かに、初恋でした。 ―終―
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