それは、初恋でした。

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 その少女は金色の長い髪をふわり風に舞わせ、青いエプロンドレスを翻し、ボクの歌にあわせて踊っている。  ボクはいつしか周りの観衆の存在も忘れ、ただただその少女のためだけに歌っていた。  ボクの知ってる歌全てを出し切っても、はじめの歌に戻って歌い続けた。  彼女とボクの間には誰も入り込めず、世界はボクらのためだけに用意された舞台のように思えた。  彼女のしなやかに伸びる指、地面を軽やかに蹴るつま先、羽が生えているかのようにくるりと綺麗にターンを描く体を、ボクはしっかり目に焼き付けた。  やがて、ボクらは少しずつ距離を縮めていく。  ボクは彼女に、唯一持っている最高の歌声を捧げ続け、少女はそれに応えるように舞い、やっと…指先が触れる距離まで来た、その時だった。  がくん  指先の触れた少女の体が、糸の切れた人形のように崩れ落ち…否、その少女は確かに人形だった。  観衆の中から車椅子の老人が、ボクへと近付いてきた。
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