特別の話

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悪魔はただその場にいた。 何をするでもなく、何を考えるでもなく。 死なないから、食べない。 死なないから、眠らない。 死なないから、働かない。 何かの団体にでも所属していれば仕事もあるだろう、趣味があればそれに没頭するだろう。 しかし彼には…何もなかった。 知りたい事も知りつくし、やりたい事もやりつくし、唯一知りたいと思う「死」も…体験はできずとも何度も見てきた。 やる事がない それが、彼の常態である。 故にここ最近の出来事は、彼にとってとても厄介で、面倒で、迷惑甚だしいと言えるものだった。 その厄介の種が今日も、腕をちぎれんばかりに振り駆けてくる。 所定の木の枝に座り無表情にそれを眺め、またうるさくなるなとだけ、彼は思った。 「こんにちは!」 真っ白ワンピースに薄茶の髪、桃色リボンがワンポイントの麦わら帽子、薔薇色ほっぺのよく似合う…似合うが何処にでもいるような普通の少女だ。 彼は睨む、少女は挨拶ととらえた。
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