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「今日は名前教えてよ」
「ないと言っている」
「それじゃアタシが付けてあげるわ」
「断る」
いつもこの会話で始まる二人のほんの一時間程の交流は、村の大人にとっては頭痛の種であり、村の同年代には気味の悪い存在であった。
少女は偶に、腕や脚に青痣を作っている。
それでも毎日此処へ来て、邪険に扱われながらも話をしようとする。
そんな少女を彼は不思議に思う。
何度となく来るなと言い追い返しているのだが、それでも次の日にはちょこんといつもの場所に座っているのだ。
「帰れ」
「名前教えてくれたらね」
「ないものをどう教えろと」
「だから、アタシが付けてあげるって」
おそらくこの少女にとっては、村にいる時間より此処にいる時間の方が楽なのだろう。
だからといって相手してやる義理はない。
彼は再度帰れと言い、そのまま黙ってしまった。
少女は夕方までその場にいつづけた。
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