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『ユウジーこれ誰のだろ』
ボクはロープの向こうにぽてんと置かれた車椅子を指差す。
夏休みに入り、毎日のように一緒にプールへ行っているクラスメイトのユウジ、車椅子を見るなり、
『こんなボロいの誰も使ってないだろうよ』
金属部分がボロボロに錆び、座る場所は破れ埃が溜まり、タイヤは明らかに空気がなかった。
押し手部分に埃まみれになった兎のキーホルダーがぶら下がっていて、おそらく使用者は女の子なんだろうと予想される。
『でも昨日はなかったろ』
『知らねー』
それよりアイスだ、とユウジはすぐ隣のコンビニに入ってしまった。
ボクは納得行かない心境で、外れかけた「豊川病院」という文字パネルを見上げた。
豊の字が傾き、それ程閉鎖から時間の経っていない筈の病院を、あたかも何十年と放置してあるかのように思わせた。
『ケイタぁ、アイスかわねーのー?』
『今いくー』
ボクは頭をアイス色に塗り替え、ユウジの待つコンビニへと走っていった。
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