そこにいるの

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その日以来、ミサキはソレに悩まされるようになった。 四六時中憑き纏われ、姿が見えない時でも気配が、臭気が、声が憑いて回る。 初めは遠くにいた。 だから、建物内に入れば姿を見る事だけは避けられた。 町中にいれば気配も声も、臭いだって通りすがりのクレープ屋の甘い香りで誤魔化せた。 しかし…じわじわと、本当に少しずつだが、確実に接近してきている。 近づくにつれ、声ははっきりと聞こえ、臭いは耐えがたい物になっていった。 常に血生臭い臭いと、髪の油の臭いがする。 声はまだなんと言っているかまでは分からないが、抑揚のない調子でずっと、同じ言葉を繰り返しているようだった。 一日、また一日と距離が縮まっていく。 相談するにも誰に言えばよいのやら、ミサキは一人恐怖に耐えるしかなかった。
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