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少し歩くとその男ははっきり見えてくる。
黒いシャツにジャージの、休日の部屋気のようだ。
もう見ないでおこう、そう思い視線を前へ戻すと、ずらりその男の向こう側に沢山の人が並んでいるのである。
一番端は顔も見えない程遠く、皆一様にあの異様な笑顔を浮かべている。
年齢性別、さらに服装の季節感もバラバラであった。
「あの…何かの、集まりですか?」
真奈美は恐る恐る訊く。
黒いシャツの男はにやにやと笑うだけで答えもしない。
無視して行くべきであろう、そうは思うがこの列の横を通るのは気味が悪い。
遠回りも出来ないので、イヤでも覚悟を決めるべきなのだが…。
ぐるぐるとそんな事が頭を巡っている時、黒いシャツの男が更に口を大きく歪めて笑顔になった。
まるでピエロのようだ。
そう思った次の瞬間、男はその笑顔のまま支えだった手を離し、暗い橋の下へと落ちていった。
「いやー!」
真奈美は顔を覆い叫んだ。
身投げを見たのは初めてだった。
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