2/6
前へ
/6ページ
次へ
男は今箱に入れられている。 棺のような箱である。 箱の内部は明るく、毒々しいまだらな赤紫の箱。 その中に男は、遺体のように転がされている。 箱自体はそれ程頑丈とは思えない。 しかし男はそこから出る事を躊躇っている。 まず、男は動けないのだ。 彼の体のラインに沿って、針金のような突起物がびっしりと箱から伸びている。 鉄の処女を思い浮かばせるそれは、大人しくしている男には一切危害を加えない、何とも絶妙な距離間で配置されているのだ。 針金がないのは床に面する板のみ。 他の五方向からは常に、無機質に光る針が彼を見据えている。 次に、彼は裸だった。 この箱に入れられた経緯はおろか、いつ此処へ来たのかすら彼は知らない。 どんな目的で、誰が、こんな妙な装置まで作って彼を捕獲しようと考えたのか。 彼には心当たりが全くなかった。 無意識に動かした足が針金に当たり、無数の細かいひっかき傷が、チリチリと痛みとなって主張した。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加