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彼の真正面、目線の先にあるのは針金ではなく、小さく区切られた覗き窓のようだった。
ただ黄ばみの目立つ天井を見るしかできないが、それは彼が求めている箱の外である事は間違いない。
彼はなんとかその小窓に触れたかったが、腕を動かせば針金が刺さる。
仕方なしに諦め、ただそれを見つめていると、
どん!
左から箱を不意に蹴られ、左腿に針金が突き刺さる。
幸い浅かったか勢いがなかったか、致命傷は避けられたようだ。
腿を気にしつつ小窓へ目を戻すと、さっと黒いものが横切った。
誰かいるのだろうか。
いるのだろう、でなければさっき箱を蹴ったのは誰だ。
彼は静かに、出来る限り落ち着いた声で話しかける。
少し上擦った声に答えるものはなく、しかし床を何かが這う、ざりっざりっという音が聞こえた。
何がいるのだろうか。
到底意志の疎通の図れる相手ではなさそうだ。
男は他に変化が起こるまで、じっと耐えるしかないと己に言い聞かせ、少し眠る事にした。
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