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ボクはその日、鏡を買った。
別段欲しいとも思わなかった物だが、「未来が視える」という何とも陳腐なキャッチコピーが目を引き、給料日の安心感とさほど高くもない値段に軽い気持ちで買ってしまったのだ。
丸い鏡を粘土のようなもので包み込み、ビーズやガラス玉で飾ったエスニックな雰囲気のあるデザイン。
少しデコボコした部分が手作り感を漂わせる。
「視せれるもんなら葬式視せてみろ」
ボクは鏡をつつき、家路についた。
広くもなく狭くもないアパートの一室、ボクは自室に帰り机に鏡を置いて夕飯の準備をする。
キィ…ン
不意に頭に甲高い音が響く。
音の元を辿るとそれはあの鏡、鏡面が発光し何かの像を結ぶ。
広く豪華な作りの部屋。
一人倒れる老人。
シーンが変わり、火葬場へ移される棺。
参列者は居らず、無縁仏になる。
「な…んだよ、これ」
ボクは鏡を掴み叫んだ。
「これがボクの未来だってのかよ!!」
だとしたら、変えてやる。
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