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とある街の話。
腕の良い人形師がいた。
彼の生み出す人形は、まるで意志を持ったような瞳と暖かさの篭もるなめらかな肌、そしてなにより『持ち主への愛情』が感じられた。
福を呼ぶとまで賞され、その街だけでなく遠方の国の王までが欲しがった。
人形師の世界で彼を知らぬ者はいない。
しかし、彼を妬み憎む者もいなかった。
彼はまさに、『人形師』だった。
彼がそんな人形を作れるのには訳がある。
彼には恋人がいた。
黒髪の美しい、心の強い女性であった。
しかし彼女は体が弱かった。
彼は体の弱い彼女に『子供がほしい』とは言えなかった。
そのかわりに、人形を我が子のように育て上げ、結果見事に人間味あふれる人形が出来上がったわけだ。
彼にとって、人形は我が子である。
その人形達を彼女も心から愛した。
子供が望めない二人にとって、人形達に囲まれた空間はこの上ない幸せな時間だった。
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