序章

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あれから数十年、翡翠堂は今もある。 翡翠堂となってから人形の噂はさらに広まった。 弟子の作った人形は本当に福を呼んだらしい。 勿論それは偶然だろう。 しかし、火事の中人形に導かれて助かった、人形に押されてよろけた瞬間真後ろに刃物が落ちてきた、などの不思議な体験談が後を絶たないそうだ。 それらの人形を生み出した当本人は今日も人形部屋で大の字になって呆けている。 二代目人形師の翡翠、彼はとことん怠け者である。 先代は一ヶ月で何十体も作ったのにと街の老婆に小言を頂戴する日々。 それでも一日の仕事時間は5時間と決め、それ以外は絶対に働かなかった。 働かなくとも生活はできる。 三体作れば1ヶ月贅沢な暮らしができるくらいに、翡翠の人形は高額で売れた。 翡翠自身は金に執着はないが、怠けるために高額をふっかけ諦めさせようとするのに相手が言い値で注文するのだ。 それがまた、値段をつり上げる結果となった。
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