序章

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翡翠自身は人形を作ることは嫌いじゃない。 しかし仕事として作るのは嫌いだという、なんとも我が儘な奴でもある。 こんな我が儘な怠け者をしっかり支える者がいる。 椿、黒髪の美しい、心の強い女性。 それはかの女性にそっくりな、和服の似合う色白美人。 『また寝てますの?』 呆れたように、しかし柔らかく優しい口調で、寝転ぶ翡翠の髪を撫でる。 風邪を引いてしまいますよと、近くにあった毛布をかける。 母性あふれる彼女だが、関節部分にはしっかりとみえる継ぎ目。 椿は翡翠の一番初めに作った人形だった。 椿は母親である。 翡翠は一番初めに母親を作ったのだ。 しかしその母親像は少しばかり不完全で、どこかいびつだった。 翡翠は考えた。 どうすれば完全な母親ができる? 翡翠は『子供』を作ることにした。 翡翠にはない、子供らしさと甘える勇気、無知、可能性…。 そのためには完全じゃなきゃいけない。 制作には十年かかった。
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