序章

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『ただいま…』 扉を少し開け、こっそりのぞき込む少女がいる。 椿によく似た黒髪の少女。 月見、『子供』である。 名前は翡翠が人形部屋に転がっていた昔の看板からとった。 いい加減のようだがそれなりに思い入れはあるらしい。 月見には継ぎ目がない。 それどころか、肌は暖かく柔らかく。 髪も放置すれば伸びる。 怪我をすれば血まで流れる手の込み様。 食事も可能である…そこは椿も一緒なんだけど。 『兄様、今日はお仕事…』 最後まで言葉を紡がない、内気で引っ込み思案の人見知り。 本来目指していた元気いっぱいの子供にはならなかったが、コレはコレで可愛いと今は思う。 『今日は休み、ボクは寝るのに忙しい』 左手をひらひらと、顔を向けもせず素っ気なく答える。 そう…としょんぼりした声で扉を閉める。 『昼寝だったら一緒にしてやらなくもない』 一旦閉まった扉がまた静かに開き、嬉しそうなはにかみ笑顔が入ってきた。
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