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『遭遇』
私は取り乱す患者を何とか宥め、精神安定剤を渡して様子を見る事にした。
隙間が怖いと訴える患者は少なくはない。
陰口などの人の目を気にするタイプの患者にはよく見られる症状だ。
しかし…今日の患者はあまりにも怯えすぎだ。
身に覚えがあるのか、それとも幼児期の体験からくるのか…どの道少々厄介なのに変わりはない。
血圧も上がり気味だし、慎重に対処しなければ。
しかし、隙間に指と目か。
今時流行らない怪談話を聞いているような気分だった。
障子を開けっ放しにしていると老婆が覗くとか、そんな感じの怪談話にそっくりだ。
子供の頃なら一緒に恐怖を味わってやれたかもしれないが、今の私には精神疾患の一例にすぎない。
人間は成長すればするほ程、感情的に鈍感になっていく生き物なのだろう。
そうしなければ生きていくには辛すぎる。
さて、次の患者が待っている。
さっさと切り替えなければ。
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