5人が本棚に入れています
本棚に追加
──そして僕は彼を見つめた。
彼の黒い瞳は、怖れを表している。
残暑が厳しい、秋の一時。
西の方角からの橙色の光を遮る様に、疾風が雨雲を持って来た。
「ねぇ、想い出してよ。僕たちが生まれた、あの日のことを……」
話し掛けると、彼は左手でゆっくりとグランドの土からナイフを抜いた。
体を小刻みに震わしながら、恐れを消す様に、瞳にあれを宿す。
嗚呼、まだ抵抗する気なんだね?
「何のことだ……」
彼が呟いた、その瞬間。
キィィィンと、遠くまで金属音が響き渡る。
夕日に、僕の振るった鎌と、それに防がれた彼のナイフが輝いた。
「今までとは違う自分を感じているね?」
「……」
「図星だね?」
「黙れ!」
まだ、完全には気付いていないようだ。
ただ、少しは感じ始めている。
今はまだ、それで良い。
今はまだ、その方が良い。
僕と彼……2人同時に存在してはならない者。
この運命を恨むことはお門違いだろう。
その為に僕たちは生まれ、殺し合うのだから。
「僕は君を“星の為に”殺さないといけないんだ」
「どういう意味だ!?」
「僕と戦っていれば……その内解るんじゃないかな?」
クスクスと笑う僕。
「そろそろ本気で行くよ。
虚川 疾!」
最初のコメントを投稿しよう!