玉子焼き

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新幹線のホームを降りるとむずかる沙耶香の手を引き、 慌ただしく改札を駆け抜けた私は直ぐ様タクシーに乗り込んだ。 矢張り夫には無理を言い、転勤には付き合わず地元に残るべきだった。 半年前、認知は進んでいたが肢体に不自由の無い父を、 夫の尽力により一億の現金を支払い私は有料老人ホームに入居させた。 設備は万全だったし健康であるならば父に不自由はない。 しかし不運とは多くの場合、妥協と怠慢の声と共に到来するものなのだろう。 転勤先での生活が落ち着くまもなく、脳梗塞で父が危篤に陥ったとホームより連絡を受け、 私は自分の妥協と怠慢を心から反省した。
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