Request:140 Memento

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律儀に質問に答えてくれる男性。コタロウの事を“薄い顔”だと嫌味な言い方をするライだが、この男性の顔立ちは特有の美しさがある印象を受ける。男前と言うより、フレイと同じ綺麗な系統の顔だ。 「兄ちゃん人捜し?それとも迷子?」 「まだ言うか……。」 「良い目医者を捜しています。」 「メイシャ……?」 「眼科医の事だ。」 「先程地図を描いていただいたのですが、何分方向音痴なもので……」 「これから病院に向かうので、良ければ一緒に行きませんか?」 「忝(かたじけな)い。」 アイリーンに頭を下げた後、男性はふとライの腰の得物に目を向け血相を変える。 「その刀、見せてはいただけませんか?」 「いいっスよ。」 アルバートの形見である刀を男は両手で受け取り、柄頭から鐺(こじり)、鞘から抜いた刀身の切っ先まで一心に見る。刀はヤマト発祥の武器、興味を持つのは分かるが、そんなにまじまじと見るものだろうか? 「拵(こしらえ)の装飾、鯉を模した目貫、雅やかな波紋……もしや、魔を斬る刀では?」 「はい。魔力を無効化する力を持つ原料が使われているそうです。」 「やはりそうか。この刀はどこで?」 「オレが尊敬する人から託された物だから、どこって言われても……。」 「お金持ちのお屋敷にあったとしか……」 元々この刀は、アルバートとアイリーンが地下で奴隷として働いていた屋敷からアルバートが奪ってきたもの。その屋敷の場所も所有者も、今となっては知る術も無い。 「この剣がどうかしたんですか?」 「かつて、我が母国ヤマト全土に名を馳せた稀代の刀匠、剛徹が打った刀の一振りです。」 ガンテツ(剛徹)は類希な腕を持ちながら弟子は取らず、人里離れた工房で刀鍛冶に心血を注いだ男だったそう。今でこそ主流だが、当時は刀に金属以外の素材や魔の力を持たせる事は刀の美学に反するとされていた中、ガンテツは型に囚われず率先して様々な素材を用い、呪(まじな)いやストラを混ぜ込んだ刀を打った。世論に反して絶大な力と装飾面での美しさを持つ刀の数々はサムライの心を掴み、ガンテツの名は瞬く間にヤマトに轟いた。 ガンテツの打つ刀は需要が増え高値で取引される事となったが、彼は同じ力を持つ刀は2振りと作らず、また、己が目利きし納得のいく素材が揃わない限り刀は打たず、完成された本数は少なかった。そんな折、ガンテツは金銭目当ての賊の襲撃に遭い殺害され、工房にあった彼の刀は様々なルートで世に出回る事となった。
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