Request:140 Memento

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故に行方知れずの刀は何振りもある。ガンテツは職人気質な男で、己が制作する部分は己で彫る他、別途で制作している鞘の職人にも同じ注文を付け全ての刀が同じ装飾なるよう徹底していた。制作した一つ一つの刀の名や能力、材料に至るまで全て記述として残されているが、現代でもガンテツがどの様な製法で名刀の数々を作り上げたかは分かっておらず、その力や出来栄えの良さ、希少性からヤマトでは彼の作品を欲しがる人間は五万と居る。 「はえ~、この剣ってそんなにスゲェんだぁ……いやいや、あげませんよ!?」 「そこまで卑しくはない。刀はサムライの魂、如何に大切な物かは心得ています。」 「今では魔封石とか対魔兵器とか珍しくないですけど、そんなにスゴい物なんですか?」 「この刀程、対魔の力を維持した状態で鍛えられた武具は無いそうです。ともあれ長らくヤマト国外にあったそうなので、噂の域は出ませんがね。」 「ガンテツさん、そんなスゲェ剣をいっぱい持ってたんなら、賊くらい倒せそうなもんだけどなぁ。」 「彼はあくまで刀匠、振るう技術は無かった。実はこの刀、記述によれば剛徹が最後に打った刀らしいのです。刀に与えた名はこの柄の中に隠れる茎(なかご)と呼ばれる刀身の部分に彫られるのですが、この刀にはそれが無く、書に記載も無い。」 「じゃあコイツ、名前無いんだ……。」 「剛徹が付けた名を彫る前に殺されたのか、元より決まっていなかったのか、今では知る由もありません。故に正式な名として認められていませんが、ヤマトでは魔を斬り退ける名も無きこの刀は『無銘』と呼ばれています。」 名も無き刀が無銘(むめい)という仮の名で広まっているとは皮肉なもの。しかし長く鎖国状態にあったヤマトから遠く海を渡って大陸に持ち運ばれ、巡り巡ってアルバートやライの手元に渡り、鎖国を解いたヤマトの民と共に戦う事になろうとは、不思議な縁を感じる。 「兄ちゃん剣に詳しいんだな。」 「これでも刀に生きる身ですから。」 「佇まいから風格を感じます。もしや名だたる剣客とか?」 「ヤマトの一領地を治める者。申し遅れました、名を一色義継と申します。以後、お見知り置きを。」 「イッシキさん……変わったお名前ですね。」 「ん?……あぁそうか、逆か……。名は義継、姓が一色です。」 ヨシツグが大陸に渡ってから幾度となくぶつかる名乗りの壁。意識しなければならず、中々慣れない。
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