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「じゃあヨシツグさんって強ぇんだ!」
「いや、あの……そ、そこそこ……。」
自画自賛に抵抗があり濁すヨシツグの言葉を知ってか知らずか、ライの眼はキラキラと輝きグイグイ前に出る。
「オレさ、この形の剣って使った事無ぇんだ!良かったら教えてくんない!?」
それが人に物を頼む態度なのか。ライはもう一発リアから大目玉を食らい、アイリーン共々ペコペコと頭を下げる。
「私で宜しければ教授致しましょう。」
「やったァァ!!!じゃあ番号交換しよ!」
「敬語っ!!」
「はひぃ!……無力な私目と番号を交換してください、お願いします……。」
怒られたライが取り出したのは携帯電話。ヨシツグにとっては謎の四角い箱。………はたと気づきクリスタルセンスを取り出し、漸く互いの周波数を登録。アイリーンとヨシツグに別れを告げ、ライはリアと共に軍の試験場へ向かっていった。
「元気な若者ですね。あの向上心は素晴らしい。」
「頼り甲斐は出てきましたけど、まだまだやんちゃな子供です。」
「子供!?彼らは大人ではないのですか?」
「この国では50歳(20歳)で成人なので、リアは4年後、ライは7年後に成人です。」
年下だとは思っていたが、まさか未成年だったとは………人種的な見た目の違いをしみじみと感じるヨシツグ。そしてライ達もまた、ヨシツグを実年齢よりかなり若く見ていた事を後で知る。
「ヨシツグさんは何故目医者を捜しているんですか?」
「妻が眼を患っていまして。」
「そうだったんですか……奥様はどちらに?」
「ヤマトに残してきました。来月には子供が産まれますから。……妻の病は、徐々に視力が低下し、果ては見えなくなる病。このままだと子供の成長が見られないのです……。」
ヨシツグは悔しそうに唇を噛む。どんなに立派な領主だろうと、優れた剣客だろうと、愛する妻の病一つ治せない。これ程までに無力さを感じる事は無い。
「私も先月出産して、子供を残してきました。子供、同級生ですね。」
争いは悲しみばかりを生む。しかし目の前の女性は些細な共通点に嬉しそうに微笑んでいる………寂しさを押し殺して、必死に今を生きている女性の姿はヤマトで見てきたもの。異邦の彼女も、まさに目の前を見る事で己の精神を保っているのだと痛感する。
「奥様の病気、きっと治ります。」
「……ありがとう。」
ヨシツグの妻、フミノの病は母国ではどんな名医も匙を投げた難病。病名も知らず根拠も無く初対面。だがそんなアイリーンの言葉が今は頼もしく、そして嬉しかった。
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