Request:140 Memento

9/17
338人が本棚に入れています
本棚に追加
/2556ページ
「じゃあヨシツグさんって強ぇんだ!」 「いや、あの……そ、そこそこ……。」 自画自賛に抵抗があり濁すヨシツグの言葉を知ってか知らずか、ライの眼はキラキラと輝きグイグイ前に出る。 「オレさ、この形の剣って使った事無ぇんだ!良かったら教えてくんない!?」 それが人に物を頼む態度なのか。ライはもう一発リアから大目玉を食らい、アイリーン共々ペコペコと頭を下げる。 「私で宜しければ教授致しましょう。」 「やったァァ!!!じゃあ番号交換しよ!」 「敬語っ!!」 「はひぃ!……無力な私目と番号を交換してください、お願いします……。」 怒られたライが取り出したのは携帯電話。ヨシツグにとっては謎の四角い箱。………はたと気づきクリスタルセンスを取り出し、漸く互いの周波数を登録。アイリーンとヨシツグに別れを告げ、ライはリアと共に軍の試験場へ向かっていった。 「元気な若者ですね。あの向上心は素晴らしい。」 「頼り甲斐は出てきましたけど、まだまだやんちゃな子供です。」 「子供!?彼らは大人ではないのですか?」 「この国では50歳(20歳)で成人なので、リアは4年後、ライは7年後に成人です。」 年下だとは思っていたが、まさか未成年だったとは………人種的な見た目の違いをしみじみと感じるヨシツグ。そしてライ達もまた、ヨシツグを実年齢よりかなり若く見ていた事を後で知る。 「ヨシツグさんは何故目医者を捜しているんですか?」 「妻が眼を患っていまして。」 「そうだったんですか……奥様はどちらに?」 「ヤマトに残してきました。来月には子供が産まれますから。……妻の病は、徐々に視力が低下し、果ては見えなくなる病。このままだと子供の成長が見られないのです……。」 ヨシツグは悔しそうに唇を噛む。どんなに立派な領主だろうと、優れた剣客だろうと、愛する妻の病一つ治せない。これ程までに無力さを感じる事は無い。 「私も先月出産して、子供を残してきました。子供、同級生ですね。」 争いは悲しみばかりを生む。しかし目の前の女性は些細な共通点に嬉しそうに微笑んでいる………寂しさを押し殺して、必死に今を生きている女性の姿はヤマトで見てきたもの。異邦の彼女も、まさに目の前を見る事で己の精神を保っているのだと痛感する。 「奥様の病気、きっと治ります。」 「……ありがとう。」 ヨシツグの妻、フミノの病は母国ではどんな名医も匙を投げた難病。病名も知らず根拠も無く初対面。だがそんなアイリーンの言葉が今は頼もしく、そして嬉しかった。
/2556ページ

最初のコメントを投稿しよう!