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アイリーンに連れられやって来た病院はヨシツグにとって別世界の建物に映る。巨大な建物、材質や術式の違う魔道具や医療設備の数々は、ヤマトの物と用途は同じ物でも見た目だけでは判別がつかない物も多い。 「先生、診察が終わったらお話を伺ってくれるそうですよ。……ヨシツグさん?」 「え?あ、ありがとうございます。」 「ふふ。それじゃあ、私はこれで。」 物珍しさに目を白黒させているヨシツグに微笑み掛け、アイリーンは病室がある上階へ向かう。病室が連なる廊下の先には、見張りが立ち厳重な結界に護られている特別室がある。 「ご要件は?」 「フレイ────えっと、エンハールは来ていますか?」 「失礼ですが、貴方は?」 「エンハールの妻のアイリーンと申します。」 「確認させていただきます。」 警備員は銃に似た形状の魔道具を取り出しアイリーンに向け、魔道具から空中に投影されるディスプレイにはアイリーンの顔画像と情報が映し出される。ストラには固有の周波があり、広くバイアス族の間では身分証明に使われている。レグナム・バスティア王国では個人情報の一つとして国民のストラの周波数が登録され、国が管理する記録用術式によって保管されている。各行政機関や公共機関、目の前の警備員が持つストラの周波識別機等と術式によりリンクし、どこでも迅速に身分の確認が行える。 「アイリーン・ケーニッヒ・バロンバイヤー様ですね、失礼致しました。エンハール様は中に居らっしゃいます。入られますか?それともお呼び致しましょうか?」 「いえ、来ているなら大丈夫です。途中で倒れてないか心配だったもので。」 睡眠不足や疲労でいつ倒れてもおかしくないフレイ。無事に着いているならと、安心したアイリーンは苦しんでいる負傷者達の元へ急ぐ。 ────コンコンコンっ 「はい……。」 「どーもー。」 乾いたノック音の後、蚊の鳴く様な声で返事をするゼノス。しかし開かれた扉から入ってきた珍しい人物を見た瞬間、ベッドに預けていた身体を跳ねる様に起き上がらせる。 「エンハール殿────っ!」 「そのままで結構ですよ。……こりゃ嫉妬か?男前の顔に酷い事しやがる。」 フレイは痛みに顔を歪めているゼノスの頬のかさぶたを指で撫でて言う。 化身時の右翼を失ったゼノスの右肩は包帯からはみ出す大きさで皮膚がケロイド状になり、他にも骨折や打撲等まだまだ傷が癒えていない。軽い冗談交じりのフレイの言い回しに是非も言わず、ゼノスは浮かない表情を浮かべる。
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