Request:140 Memento

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「座っても?」 「あぁ、すみません……。」 フレイはベッド脇のパイプ椅子に腰掛け、心ここに在らずといった様相で虚空を見つめているゼノスを暫く観察する。 ………しかし、待てどもゼノスは何も語らず微動だにせず、このままでは埒が明かない。フレイは懐から超小型のコンピュータを取り出し、世界中に点在している連合軍の現状を次々に読み上げていく。 治療に専念させるべく、今の今まで誰もゼノスに戦況を伝えていなかった為、たった2週間とて目まぐるしい変化を遂げている内容に全ての理解が追いつかない。 バルディア大陸のクラレンス軍はクラレンスが留守であっても傘下に加わらない敵対勢力と積極的に交戦、力を示し恐怖を蔓延させている。その最中、連合軍に加入したヒュム族国家アンガスが襲撃を受け、身を潜めていたバイアス族の戦士と共に応戦した事により、ヒュム族とバイアス族が連合軍として共闘している事実が露見。 バイアス族の連合軍だけでも厄介だった筈が更なる脅威になると焦ったのか、ここ1週間あまりバルディア大陸でのクラレンス軍の動きはより活発化。アンガス以外のヒュム族連合軍加盟国からも小競り合いの連絡を度々受け、一進一退の攻防を続けている。 また、両種族の共闘はクラレンスと敵対している国や別勢力、襲撃を危惧したトバルーシュ大陸やアジェストリア大陸のバイアス族国家の耳にも届き、連合軍と共闘したいとの申し出が複数ある。全てを二つ返事で承諾し兼ねるが、このままでは世界は連合軍とクラレンス軍に二分されるだろう。 「どう?少しは気が楽になりました?」 とんでもない情報量の話を聞かされた後、フレイから言われた意外な言葉にゼノスは怪訝な顔を向ける。 「心身弱ってる時、必要以上に気を遣われると逆に凹む時ってありません?」 「そう、ですね……皆、私が何を聞いても何も話してくれない。ただ大丈夫だと、根拠の無い軽い言葉が帰ってくるだけ……まるで“もうお前は必要無い”と言わんばかりだ……。」 「クレアラグーンの国民は難民として各々の国に受け入れられている。安心していいのは事実です。だから“ちゃんと”治療を受けてください。いつまでも痛いのは嫌でしょう?」 ゼノスは意識を回復してからというもの、効果は高いが多用出来ない光の治癒魔法や医療用魔道具での治療を拒否し他の患者に回せと言い続け、自身は薬や僅かに自己回復能力を高める魔法等の、地道で時間の掛かる治療ばかりを受けている。
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