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「いいんです。自分がいくら傷付こうが……家族を、家を、国を失った国民や、犠牲になった者達に、ただただ申し訳ない……」
「『もう少し、自分を大事にしてください』。」
「エンハール殿……?」
「出逢って間もない頃の妻に言われた一言です。この一言で、オレは彼女に惚れました。」
「はぁ……。」
「つっても、言われた当初は全く心に刺さらなかった。当然です。生きたいとは思わない、でも死ぬだけの理由も無い。投げやりな人生を惰性で生きていたオレは、大事にする自分なんて持ってなかったから。……貴方もそうでしょ?」
そう投げ掛けられた時、心臓を鈍器で叩かれた様な鈍い痛みがゼノスの胸を苦しめる。
「王族に生まれ、いずれ背負うモノの大きさに怯えて、プレッシャーに押し潰されそうな毎日。泣き言も言えず、本心をひた隠す内、自分で自分の心を殺してきた。そんな事を繰り返す内に、いつの間にか“自分”が消えていった。」
「な、なんで……!?誰にも話した事なんか……!」
「オレも似た様なもんだったから。ただし、周りには全く期待されてなかったけど。」
少し話す程度で親しくはないが、その中でゼノスが自分とフレイは似ていると思った事は無かった。だが彼の言葉は心の中を覗き見ているかの如く的を射ている。責任ある立場で多忙を極めるフレイの姿は自分と重なるところはあれど、どことなく感じさせる余裕や幸福感は決定的に違う点だと思っていた。似た境遇で育ったのなら、何故こんなにも違うのだろう………
「時に!同い年らしいんですよ、オレ達。互いにもう王様でもないんだし、この際敬語も取っ払って腹ぁ割って話さない?」
「……はい。」
「率直に、ゼノスはこれからどうしたいの?」
「……分からない……王としての生き方を奪われ、今更生き直す事なんて……」
本心まで捨てて一つの生き方に依存していたゼノスの迷いは深い。
幼少期、差別を受けていたフレイは唯一味方だった母に、母亡き後は友人のグレンに依存していた。母も友も失った時の喪失感や虚脱感、戸惑いは今も鮮明に覚えている。
「公に、オレは2年前までアジェストリア大陸に留学してたって事になってるんだけど、実際は違う。25歳(11~12歳)の時、色々あって国を追い出されて、ヤマトに渡って、その後バルディア大陸に着いた。今も向こうに家があるし、信頼出来るヒュム族の人達に産まれたばかりの子供達も任せてきた。」
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