Request:140 Memento

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「たしかガウナ国に住まいがあり、奥様やライ君達と住んでいるんだよね?」 「そうそう。今の家に住み始めたのは5年前の今頃だったかな……その前までは何十年もずっと、1人で山小屋に住んでた。」 「王族なのに1人?」 「監視の目から逃れたくて、1人でヤマトから逃げ出したから。当時の生き方は褒められたもんじゃなかった。盗みもやったし、何より女性を食い物にしてた。」 「え!?……またまた、冗談を。バイアス族の貴方が、ヒュム族相手に密になる行為など出来る筈がない。」 突拍子の無い話を信用しないゼノスの前に、フレイは手に持ったカルマイト鉱石でできた変化の魔法陣を見せる。魔法陣が輝くとフレイの髪の色や長さ、眼の色、身長、骨格、種族、声に至るまで全くの別人に変わる。 「こんな風にヒュム族に化けて。」 「見た目も。」 「声も。」 「名前も。」 「女性の数だけ変えてきた。」 軽い音を立てて指を鳴らす度、全くの別人に変化していくフレイをゼノスは驚愕の表情で見る。目の前で起きている事なのに、まるで夢でも見ている気分だ。 「な、な、なッ……!?」 「ねぇ?最低でしょ?」 「えぇ、まぁ……いやッ!そんな事は────」 「いいのいいの、自覚してる。」 「す、すみません……何故姿が?」 「ガルーダさんが人間に化けてる時があるだろ?あれと同じ様な魔法で、ロストマジックの一種。」 「……私の理解力が乏しいのか、頭がパンク寸前だ……。」 「真面目だなぁ、雑談程度に捉えてよ。」 雑談にしては重過ぎるフレイの過去話。訂正しよう、断じて同じ境遇などではない。王族という肩書きは同じでも、周囲に助けられてきた自分とは違い、フレイは多くの時を1人で生きてきた。ゼノスが持っていないモノを持っていて当然だ。 「自堕落で無気力、自分も含めて大事なモノを一切持っていなかったオレが、今じゃ血よりも濃い絆で繋がった家族を持って、帰りを待ってくれてる人々が居て、出来た女房貰って、三つ子の父親。国の為に立派な役職にまで就いてる。こんな幸せが訪れるなんて、数年前まで夢にも思わなかった。ゼノスも遅過ぎる事なんてない。」 「不甲斐ない私に幸福など、国民はきっと許さない。」 「オレなんて生まれた時から親族連中から“殺せコール”受けてたぜ?ゼノスは承認欲求強過ぎ。言いたいヤツには勝手に言わせておけ。もう王様じゃないんだから、お前が何をしようが関係無い連中だろ?」 フレイの楽観的な意見は、如何に自分が悲観的であるかをゼノスに教えてくれる。
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