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視線を落とし、物思いに耽ていたゼノスはおかしさを含んだ笑いを漏らす。
「生前のガブリエラさんにも言われました。“お前は国民に期待されていない”って。」
「おぉ、中々辛辣……」
「いいえ。言葉は違えど、エンハールと同じ様に励ましてくれていた。常に頭の片隅にあっても受け入れたくなかった言葉……自分の器に見合わず、自意識過剰だったのかな……。」
「かもね。」
取り繕わないフレイの言葉は不思議と心地良い。素直な心で話せたのは、きっと自分の事をよく知らないフレイが相手だったからだろう。控えめな笑顔を浮かべるゼノスの表情はどこか晴れ晴れとして見える。
「落ち着いたらさ、うちに遊びに来なよ。新しい発見は色々あると思うぜ。」
「是非伺いたい。見聞を広めるには良い環境だ。……そうだな、世界を旅して回るのもいいかも。」
「いいね、その意気。」
「そうだ、ヒュム族の義肢職人を連れてきたのはエンハール達だったよね?竜角族の翼は作れないだろうか?」
「先日聞いてみたが、バイアス族の翼に関しては取り扱った事が無いそうだ。けどバイアスの顧客はオレを含め僅かながらに居たから、バイアスの生体工学にも精通してるらしい。試作はしてみるってさ。……ともあれ、完成よりもゼノスのケガが治る方が早いだろうな。」
「そうか……わざわざありがとう。」
バイアス族にも独自の技術で開発された義体となる魔道具があるが、敵が魔封石を始めとする対魔兵器を使用すれば故障の恐れがある。自由に飛べずどこまで戦えるのか不安は拭えないが、消え掛けていたゼノスの闘志は静かに燃え上がっていた。
活力が戻ったゼノスの表情を見届け、フレイは病院を後にする。急ぎ城へ戻る道すがら、軍の訓練場の方から突如巨大な氷の柱が天高く伸びる。相当な質量の氷塊。上級魔法に間違いなく、発動者はかなりの腕前の持ち主と見える。
「今の、全力……?」
「いや……全然……。」
フレイが見ていたのと同じ氷塊を仰ぎ見るのは、戦慄しガッチガチに固まっているライとリア。ライはともかく、発動者であるリアまでもが新たな己の力に怯えていた。今までは全ての魔力を使おうとこんなに巨大な氷塊は作れなかった。それが“コップに入れる様な小さな氷を作ってみるかー”、程度の気持ちで魔法を発動させたらこれだ。これがフェンリルの力の一端だというのだから驚きは尽きない。
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