Request:140 Memento

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突如出現した氷塊に警戒した人々を居合わせた軍人総出で宥め、改めて2人は氷を見上げる。これは全力で魔法を発動させると街中にまで被害を及ぼしかねない。 「アルはその剣で魔法を斬り戦っていた。ヨシツグさんの話が本当なら、この氷も斬れるんじゃないか?」 到底斬れるとは思えないが、ライは鞘から刀身を抜き、駆け出した勢いそのままに刀と氷塊を接触させる。まるで紙でも斬っているかの様に滑らかに刃が滑り、一切の抵抗力を感じず氷塊に一文字の切れ込みが入る。手に取った刀身は僅かに冷気を帯びているが、刃こぼれ一つしていない。 「噂に違わぬ退魔の力、確と見させて頂いた。」 足音も気配も無く現れたヨシツグにライを始めとした周囲はどよめく。ただし、リアだけを除いて。 「いつの間に!?」 「普通に歩いて来てたぞ。」 「おや、まさか気づかれるとは。」 「匂いがしたもので。」 「お前失礼だろッ!!」 「勘違いするな、ヨシツグさんは爽やかな良い匂いだ。お前はちょっと汗臭い。」 「暑いんだよ!しょうがねぇだろ!!」 「まぁまぁ、喧嘩はそこまで。稽古を付ける時はコレを持ってきてね。真剣は危ないから。」 ヨシツグは柔らかな物腰で宥めるとライに木刀を渡す。 勢いで稽古を付けてくれと申し出たものの、ヨシツグの背丈はリアと同じくらい、軍の戦士と比べたら筋肉量も少なく少々頼りない印象。風格はあるが本当に強者なのか怪しくなってきた。だがそんなライの考えは数時間後、物の見事に砕け散る。 ヨシツグと一度別れライは兵器開発者に協力、リアは格段に強くなった魔法のコントロール訓練を行い、ライとヨシツグが再会したのは日が沈んでから。やる気に満ちたライは休まずヨシツグとの稽古を開始し、リアも傍らで引き続き魔法の訓練を行っているのだが……… 「違うッ!!!刀の持ち方すらまともに出来んのか!?」 「ひぇッ!こ、こうですか?」 「そうだ、そのまま振って……重心がブレているぞ!それでは太刀筋が乱れ深く斬り込めん!」 「す、すんません!こうですか!?」 「違う、こうだッ!そんな使い方では刀が泣くぞ!?」 ライの涙滲む叫び、ヨシツグの怒号、木刀がぶつかる乾いた音の後にはライの悲鳴が上がる。真剣は危ないというか、木刀でなければライは何度か死んでいる。ヨシツグのあまりの変わりように全く集中出来ないリア。優しかったヨシツグはどこへ行ってしまったのか………。
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