Request:140 Memento

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「ここまでにしよう。では、また午後に。」 「こひゅ……ひゅ……あ、ありがとう…ございましたっ……。」 一礼した後、手の甲で汗を拭ったヨシツグは彼らの知る優しい笑顔を作る。しかし“また午後に”の一言が怖くて仕方がない。 颯爽と去りゆくヨシツグとは対照的に、虫の息のライはリアに肩を借りて休憩スペースのベンチに座り、僅かに白んだ東の空を見る。 「こんな時間か……ヨシツグさんに悪い事したかな?」 「善意は素直に受け取るべきだ。はい、冷たい飲み物。」 「サンキュ……お前も疲れてんだろ?付き合ってくれなくて良かったのに。」 「ヨシツグさんが予想の斜め上なスパルタ具合だったから。」 リアはライの頬にできた痣をわざと押して言う。頬だけでなく、容赦無い特訓を受けたライは身体中痣や擦り傷だらけだ。 「いってぇ……キツいけど時間に余裕がある訳じゃねぇし、一回一回丁寧に教えられるよりいいよ。」 「習うより慣れろか。」 家でもフレイやアルバートから稽古を受けた事はあるが、剣一筋で生き門下も多いヨシツグは教えるのも上手く、ライの上達も早い。ライは今までも剣を使い戦ってきたが、特別扱いが上手い訳ではなく、魔法が剣を伝い相手を感電させて戦う方法が多かった。しかしこの刀、無銘は魔法を斬るが付与も出来ず、今まで通りの戦い方が出来ない。クラレンスとの戦いに備え、少しでも剣術を磨く必要があるのだ。 「フレイやアルに少しは近づけるかな……」 「急にどうした?」 「2人はオレの目標なんだ。底抜けの努力家で、強くて優しくて余裕もあって、おまけにカッコいい大人の男。月並な発想だけどさ、周りにそういう人が居るのって貴重じゃね?」 「確かにな。なら私は、目標に向かい努力するライの支えになろう。」 「っ!お、おう!頼りにしてるぜ。」 「任せろ!挫けそうになったら頭でも尻でも叩いて奮起させてやるからな!」 「そういうこっちゃねぇだろ……」 数秒前の赤面とドキドキを返してほしい。ライはわざとらしく大きめの溜め息を吐き、飲み物を一気に飲み干す。リアの頭に疑問符が浮かぶ中、まだ朝日が見えない空を見つめながらポツリポツリと語る。 「これから言う事、別に悲観とか後ろ向きな考えって訳じゃないから。オレの素直な気持ちだと思って聞いてくれ。」 「分かった。」 「この先、オレがどうなるか分からないって話はしたよな。例えば何十年経ってもオレが戻らなくて、そんでもってリアが“いいな”って思える男が現れたら、そいつと一緒になってほしい。」
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