顔を無くした少年(1)

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 城壁をくぐり抜けると、外には城を守るように植えられている木々がある。  大して寒くはないがガウンを大ざっぱに羽織り、約束の人物をそこで待った。 「おはよう」 「早いな、珍しい」 「そうかしら?さ、現状報告をしましょう」  深い緑のフード付きマントをまとった男を急かす女はガウンの合わせを握り、報告の言葉を待った。 「ギルティは早く聖女の記憶が欲しいらしい。気をつけなくてはならないな」  淡々と述べる男に対して、女は露骨に顔をしかめる。彼女には聖女の記憶を守る以外に、聖女の依代に一族に戻ってもらいたいという願望がむき出しのままあるのだ。 「確かに、シルヴィアの娘が一族に戻ってくれれば、生まれる子は増えて一族は安泰になるが、結局長女は国に携わらねばならない。次女はこの国〔バルフォア〕に嫁いだし、聖女の依代。三女はすでに我々の話を蹴った。諦めろ」  察していた男は溜め息とともにあきらめの言葉を吐き出した。  それでも女は食い下がる。 「でも、聖女の依代は夫と名実共に夫婦なわけじゃないわ」 「どういう意味だ?」
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