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「あの頃はまだ慎ちゃんもいるよなあ」 武志の声が落ち着いたように聞こえる。 おれたちにはもう一人、慎太郎という親友がいた。 「あのとき、慎ちゃんだけはずっと心配してたよ。武志のことさ」 慎太郎は高二になる頃に死んでしまった。 「あいつが怪我したわけじゃねえのに、泣きそうだったよな」 武志が笑った。最近になってようやく、慎太郎の話で笑えるようになった。 慎太郎は通り魔に刺されて死んだ。突然すぎて何も理解出来なかった。人が死ぬということを初めて身近に知った。 あの慎太郎の優しい声が二度と聞けない、二度と一緒に笑えないんだと思うと涙が止まらなかった。 でも慎太郎はいつもでもおれたちの中にいる。おれたちの記憶から絶対に消えやしない。そう思うようにすると、少しは笑える気がした。 こうして笑えば慎太郎も笑ってくれる気がしていた。
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