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この日のことを覚えているのには理由があった。この日はさくらと初めて出逢う日だからだ。 あの日、寝坊して急いでいたおれは走って学校へ向かっていた。川沿いの道を走る途中で、のろのろと歩く一人の後ろ姿が見えた。 同じ学校の制服を着た少女だった。少女は遅刻間際にもかかわらず川を眺めながら歩いていた。 少女の横を通る最中におれは声をかけた。 「遅刻しちゃいますよ」 少女はきょとんとしながらこちらを見ただけだった。 おれは特に気にすることもなくそのまま走り続け学校へ急いだ。 あとからそれがさくらだったと知らされた。この日のことをさくらはずっと覚えていた。 おれが声をかけていなかったら知り合うことなんてなかったんだと、さくらは何度か話した。 おれとさくらが初めて出逢った日なんだと、口を酸っぱくするほど言っていた。
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