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錆び付いた蛇口は閉めるのに少し抵抗があったがしかたがない。手についた水を軽く払って席に戻った。 騒がしい店内でひときわ騒がしい席に戻った。 「でもさあ、歳とったよなあ。あの頃はよ、このビールの美味さがわかんなかったんだぜえ」 武志はそう言ってビールをぐいと飲み干しゲップをふいた。おれに気付くと無言で後ろの道を開けておれを通した。手つきは少しおぼつかない。 「昔は良かったなあ。毎日遊んでたもんな」 焼き鳥や枝豆の乗った皿が散らかるテーブルに無理やり肘を立てながら隆二が言った。 こうして昔からの連れと集まり酒を飲み交わすのがおれの今の楽しみだ。きっとこんな風な人生が続けばそれだけで十分に幸せなんじゃないかと思う。 それでも毎日なにかに向かって努力をし続けている。それがなにかは自分でもわからないのに。だからこんなにも無気力で達成感がないんだ。
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