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おれがさくらのことを知ったのはこの日だった。
おれはサッカーをしている途中に足を捻挫してしまい保健室に向かった。
あの日のことはよく覚えている。
蒸し暑い保健室には何人か生徒がいた。ごちゃごちゃしていて慌ただしいその部屋の中でさくらはじっとこちらを見つめていた。
そこだけ時間が止まったように見えておれは吸い込まれそうになった。
さくらはおれに会ったことがあると言った。声をかけてくれたと言った。
それからお互いのことを話した。
名前はさくら。隣のクラスにいる。部活は吹奏楽。前の中学校。
いろんなことを聞いた。
保健室を出る頃にはお互いのことを『アキくん』、『さくらちゃん』と呼んでいた。
いま考えたらあのときから二人は互いに意識し始めていたんだと思う。
ばたばたと響く足音、がちゃがちゃと鳴り続ける金属音、雑音だらけの保健室。おれとさくらだけは無音の世界で会話をしていた。
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