僕のママ

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(…今日の夕飯は薊屋にしよう) 薊屋とは最寄り駅の近くにあるお店で、そこのメニューのマグロユッケ丼は僕の昔からのお気に入りだ。 気分が滅入ったときはそれを食べるのが習慣となっていた。 ちなみに、マグロユッケ丼についてくる生卵を+10円でおんたまに変えるのが僕の通だ。 うん、今日のメニューもそうしよう。 そうこう考えているうちに、駅の改札口へとたどり着いた。 僕はSuicaのセットされた財布を取ろうとジーパンのポケットへてを伸ばして―― 「………あれ…?」 ない。 財布が…ない――! 一瞬で血の気が引いた。 改札口から離れて人の邪魔にならないところで慌ててポケットに両手を突っ込み引っ掻き回す。 しかし僕の期待を裏切り、財布はジャンパーのポケットにもズボンのポケットにも入っていなかった。 おかしい、確かにポケットへと入れたはず。 リュックは塾の教材を出し入れした以来開けてないし、 第一リュックはいつもいちいち取り出すのに手間がかかるから最近はいれないようにしてる。 どこかに落としたのかな…。 塾のなかなら誰かが拾って先生が預かってくれるだろうけど、 外だったら………もう帰ってこないかもしれない。 財布の中にはSuica以外にも、塾の認証カード、テレカにマンションのカードキー、自宅連絡先の書かれた「緊急時災害カード」に現金は勿論、非常時用に持たされた諭吉さんも数枚いる…。 「不注意でなくしちゃいました」なんていったらママに何て言われるか、想像もしたくない。 それにママを悲しませてしまう。 「期待してたのに、駄目な子だ」って。 第一財布がないんじゃ、電車にも乗れないし電話もかけられない。タクシーにも乗れないし……。 もし仮に、何らかの奇跡が起きて家に帰れたとしても、ママが帰ってくるのは深夜遅く。 それまで一人この寒空のした、玄関の前で待つというのは…。 それにもしそんなことしたら、ママにこの事がバレてしまう。 だから警察や管理人さんのところへ行くのは極力避けたい。 とにかく財布を見つけるしかない。 探さなきゃ… もしなくしたことがバレたら…… .
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