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足を進めるごとに、口から吐き出される白い湯気が僕の視界を曇らせる。
ポケットから財布を落とした可能性があるのは三つ。
1つめは塾内。
だけどこの確率はかなり低い。
椅子に座ってただ黙々とホワイトボードに書かれた文字を書き移すあの場所では、
財布を落とすようなアクションは全くといっていいほどないからだ。
2つめは塾の外で靴ひもを直そうと、ポケットから手を出ししゃがんだとき。
だけどこれも余り確率は高くない。
あの時、手は確か財布の入っているジーパンのポケットではなく上着の方にいれたはずだから、
手を出した時に財布を落とした、ということはないはず。
そして、もし靴ひもを結んだ時に財布を落としていたとしても、
わざわざ屈んで結び直してるんだから、財布が落ちたならきっと気づいているはず。
そして一番有り得るのは、残る3つめの仮説。
不良とぶつかったとき……!!
あのタイミングにあの体勢なら、ぶつかった拍子に
ジーパンのポケットから財布が落ちてしまうこともあるだろう。
それに僕はその場の対処に集中していたから、
落としたことに気付かないのも納得が行ける。
いや、それしかない!
僕は、もしそこになかったらどうしようという不安と、自分の名推理の素晴らしさに少し興奮しながら道を急いだ。
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