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(ななか視点)
――
―――
――――
私はベッドの上でチャイナドレス風の寝間着を着て携帯電話を弄っていた。
その画面には私と駿人君のツーショット写真が写し出されていた。
秋に行われた体育祭の後夜祭で、駿人君が杉並くんと共謀して打ち上げた花火。
私の為に実行してくれたそれをバックに自撮りした物だった。
「懐かしいなあ……」
駿人君はいつでも皆のことを楽しませてくれた。
一見、自分優先みたいな振る舞いをしているけど、本当は周りのことをすごく考えているの。
だから沢山の女の子に好意を持たれるし、男子からも僻まれない人気者になってたんだよね。
記憶の中の駿人君はとても表情豊かだ。
でも今の駿人君はたった一つの表情しか見ることができない。
――数日前、いつも通り駿人君の病室に面会しに行くと、これまで以上に体調が悪そうだったの。
だから私は駿人君にすぐ寝ることを提案し、私自身もすぐに帰ることにした。
そしてその日から、ずっと駿人君は眠り続けている。
お医者さんは病気の影響だとは思うけど、いつまで眠ったままなのかは分からず、最悪の場合、「最期」までそのままという可能性もあるって仰ってた。
音姫さんや由夢ちゃんたち、「家族」を除けばきっと私は唯一彼の死期を教えてもらえている。
だから覚悟なんてとっくに出来ているハズだった。
でも、
「やっぱりやだよ……。もう駿人君とお話出来ないなんて……」
こめかみ辺りにじわっとした熱が生まれてきた。
崩れそうになる表情を隠すように枕に顔を埋めた。
駿人君ともっとお話がしたかった。
もっと一緒にいたかった。
そしていつか結婚して、幸せな家庭を築きたかった。
「駿人君……」
彼が眠り続けるようになってから、自室の中でもう何度その名を呟いたのかもわからない。
でも何度口にしたって、私の胸の虚無が満たされることはなかった。
――そしてついに、運命の時が来てしまった。
『もしもし、白河先輩ですか!? 駿兄さんが……駿兄さんが!!』
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