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「駿人君っ!!」
私は病室のドアを開くと同時に、彼の名前を叫んだ。
既に病室内にはお医者様と二人の看護師、由夢ちゃんと音姫先輩、そして板橋くんや小恋ちゃんといった友達のみんなが勢揃いしていた。
私は電話で呼んでくれた由夢ちゃんの元に駆け寄った。
「由夢ちゃんっ、駿人君は……!?」
「……二時間前に容態が急変したらしいんです。今は一度落ち着いたんですけど、担当医さんのお話ですと……もう一度同じことが起きたら、延命は絶望的だ、と……」
「そんな……っ!」
由夢ちゃんの説明を聞いた私は駿人君のベッドへと視線を向けた。
彼の表情は穏やかなものになっているけれど、掛け布団は足元まで雑にどけられ、胸元も大きく開かれており、先ほどまで賢明な応急処置が行われていたことが窺える。
そして何より、心電図にて知ることが出来る彼の脈が、明らかに弱まった状態であることが分かってしまったの。
駿人君の命が、もう風前の灯であることが嫌でも理解できてしまった。
「おい、駿人……お前、すぐに復帰できるって言ってたじゃねえかよ! ドッキリならとっとと止めてくれよ!」
「同志麻野よ。お前にはまだ共に調べてもらいたい未知の現象が山ほどあるのだぞ。道半ばで逝かれてしまうのは……その……とても、困る……」
「麻野……アンタがいないと張り合いがないじゃない……。アタシが生徒会に入ろうとしてるのだって……全部……アンタが居たからなのに、意味なくなっちゃうじゃない……」
「麻野くん……こんなことになるなら、あの時、ちゃんと伝えておけばよかったよ……」
板橋くん、杉並くん、柳野さん、奏枝ちゃん。
それぞれが駿人君に思いを告げていく。
他の人たちも涙をボロボロと流して、彼の危篤を悲しんでいる。
そして私も――
もう言い切っていたと思っていた感情が、堰を壊すように溢れ出てきた。
「やだやだやだよ駿人君……っ! 私、君のお陰で「あの力」の依存を乗り越えることが出来たんだよ!? そんな君だから、私はずっと一緒にいたいって思えたの! ずっと……ずっと、お互いがお爺ちゃんとお婆ちゃんになっても、隣り合って生きていくんだろうなあって思ってたの……! 嫌だよお……ここでお別れなんて、嫌なの……」
止まる気配のない涙を床へと幾つも落としながら、喋り続けてしまった。
そして喋り終わった私に小恋が寄り添ってくれた。
そのお陰で頭の片隅からゆっくりと冷静さが戻ってきたような気がした。
――もう駿人君の死は避けられない。
――だから、せめて彼の最期は一瞬たりとも逃さないでおこう。
落ち着いた思考が出してくれた結論。
私は涙を拭い、顔を上げて駿人君の顔をじっと眺めることにした。
誰もが同じように、彼の死の瞬間を、待つことしかできない状況でいる中、
突如、不思議な現象が巻き起こった。
病室の中に、突風が吹いてきたの。
しかもその風の中には、幾つもの桜の花びらが含まれていた。
(な、何これ……)
窓を閉め切った空間ではありえないハズの現象。
しかも風の勢いと花びらの数はどんどん増していく。
やがて風は竜巻のように渦の描くようになり、
大量となった花びらはその渦の中心を覆い隠す程となってしまった。
そしてある瞬間をきっかけに、風が一瞬で止み、花びらが一斉に地面へと落ちる。
するとその渦の中心に人影で現れていた。
見覚えのある人影、
見間違いハズもない。
「せ、星歌ちゃん!」
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