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「カナエ姫、お迎えに上がりました。」
時計の針は11時を指していた。
昼食の時刻でもないのにこの子は迎えにきた。
深々と頭を下げ、手を腹部の前に添えている。
ジュイン・アルセルド。
この子の名前だ。
つい最近専属のメイドとして雇われた街娘だ。
父は商人、母は農人という変わった家柄だ。
父が流れ商売をしていたところ、賊に襲われ、何もかもを失ったそうだ。
小さな街の片隅で途方にくれていると豪快に食料を運ぶ麗人がいて、父に気がつくときさくに声をかけたそうだ。
なんとも運命的な出会いを果たした夫婦だ。
「姫!姫ぇっ!!」
大きな声を出して目の前に座り込んでいた。
少し悲しそうに眉を潜めて私を見つめていた。
その瞳はまさに炎の様に澄んでいた。
「話を聞いていませんでしたね?それにこんな時間までベッドに横たわって・・・。」
そう言われて、私は体を起こし踊っていた髪を後ろに振り払った。
左手は膝元に、右手はベッドについて少し体重を寄せてジュインにもたれ掛かった。
この子から女のにおいと石鹸のかおりが鼻孔をくすぐり、ここが現実なのだと理解する。
「だいたい最近ぼーっとしすぎですよ?
今日の食事会も忘れて寝てるなんて。
らしくないです。」
先ほどから私の愚痴を目の前でボロボロとこぼすジュイン。
「また夢・・・ですか?」
そうジュインから聞かれて、私は軽く目をつぶった。
そっとベッドについた手の上から温かい手が重なったのを感じて目を開いて右に首を回した。
中心にはジュインの顔があり、それを装飾するような部屋のカーテン、窓の外の景色、タンスの上の宝石。
それさえも全てこの子を引き立てているかのように見える。
「聞かせてください、夢の話を。」
目をつぶって押し黙っている。
私は淡々と今日夢見たことを話した。
「今日はディルガという変わった男の子と一緒に過ごしていたわ。
ディルガが釣りをやってみたい、なんて言うもんだからラウドって子に場所までつれていってもらったわ。
すぐにその子は行ってしまったけど、二人でゆっくりしているとなんだか落ち着くの。
勿論、この国の領土ではないところよ?
一緒に魚を焼いて少し焦げちゃったのを二人で笑ってたわ。
幸せそうにね。」
私はその風景を思い出すように夢を語った。
ジュインは笑ったり首をかしげたりせずに素直な反応をしてくれた。
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