始まったわけではない

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「凄くいい夢ですね。」 「ええ。」 酷く落ち着いたような反応だった。 以前はそんなことあるわけないと笑って、それをしかると口を膨らませて腕をブンブン振り回して来たものだ。 何故か次の日にはケロッとして目の前に現れたものだから二人で大笑いしたわ。 「でも不思議ですよね、私も同じような夢を見るから。」 ジュインはその惹かれるような瞳を私に向けた。 それに魅入られた私はそれを食い入るように見つめた。 そして自然と口を動かした。 「でもそこに貴女はいないわ。」 彼女は黙っている。 「出来ることなら貴女とあの世界に、」 「姫。」 私を叱るように、 「いつもいっています。私はメイド、貴女は姫です。それを分かってください。」 と、すこし眉を垂れさせていた。 「わかってる・・・分かっているわ。」 「分かってないです。」 私は少しずつ顔が下に向くのがわかる。 わざとじゃないんだ。 勿論ジュインも分かってるはずだ。 「でもっ!もうすぐ結婚しなくちゃいけないし! そうしたらジュイン、貴女とだって!!」 気づいたら私は力一杯にジュインを押し倒していた。 肩に手を食い込ませて私の精一杯の力を込め。 頬に一筋の雫をたらして。 「・・・。」 ジュインは黙っていた。 その瞳は私の醜い子供の顔が見えていた。 「・・・・・。」 私はそれ以上なにも言えず、ただその状態が続いていた。 涙がジュインの頬にこぼれ落ちたとき、それは聞こえた。 『大丈夫。』 ジュインの声、と思ったけどジュインは顔を変えず私を見つめている。 ならこの声はどこから? 私はふっと力が抜けてジュインにおおいかぶさるように崩れた。 「カナエ、大丈夫。」
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